日本にパンダが来たのは1972年10月、日中国交正常化記念に中国から贈呈されたカンカン(1970生まれ オス)、ランラン(1968生まれ メス)の2頭だった。大歓迎され11月5日上野動物園での初公開日には6万人2キロの行列ができた。その後神戸の王子動物園、白浜のアドベンチャーワールド、岡山、福岡などでも人気を集めた。
それから半世紀、54年経った今月、双子で2021年6月上野生まれのシャオシャオとレイレイが中国に返還されることになり、日本からパンダはいなくなる。わたしはパンダに関心はないのだが、自分が国内でパンダを見る機会は今後おそらくないと思い、この機会にみに行くことにした。昨年、黒柳徹子の「トットあした」(新潮社2025.6 224p)で、黒柳は子どものころアメリカみやげのぬいぐるみを伯父からもらって以来ずっと好きだったという話を読んだ影響もある。
思い立ったのが12月半ば、1月8日に上野に行く予定があったので、その帰りにと思っていた。初めに入手した情報では1週間前の午後0時からウェブ申込みとあった。それで元旦の12時前に待ち構えた。ところがサイトの入口に迷い12時2分やっと入ることができた。ところがそこからが長い。15分間何度もやり直し、これでは売切れずみだろうとあきらめかけたとき、やっと申込ページが開いた。1月8日はおろかいちばん早くて1月19日の週の抽選申込しか残っていなかった。おそらく午後よりは午前のほうが倍率が低いだろうと計算し10:45で申し込んだ。運よく抽選に当選し、入場することができた。

ただ入場する行列に並ぶと約30分待ち、見るのは約20人グループで1分だけと決まっている。予約時間の30分前に到着するとすでに100人くらいの行列ができていた。95%は女性、珍しいことに子どもはほとんどいない。抽選に申し込んでわざわざ来るのだから、やはりパンダ熱烈ファンが中心なのだろう。
パンダのもりは6800平方メートルもある広大さで屋外放飼場が4つ、その間に屋内展示室が3室いまは検疫期間のため1号室にレイレイ、2号室にシャオシャオ、3号室は空室になっている。近くにいたパンダファンの方が屋外放飼場の台の前で「シャオちゃんは、よくあの台の上にいた」と教えてくれた。

やっと順番が回ってきて、グループで入室すると部屋の真ん中にバーがある。そこで左右を分け、交代するようになっていた。まず雌のレイレイから。1m以上ありサイズが大きいのでよく見えた。体重92キロ。身長は、激しく動くため計測していないようだが130-150センチ程度あるようにみえた。なにしろクマの仲間なのだから。
前列、中列、後列に分かれ、前列は座り、中列は中腰なので、たいていの人はよくみえたはずだ。待っている間は談笑しているひとがかなりいたが、展示場内は静まり返っていた。たいていの人が撮影に没頭していた。きっと心の中でこれまでの思い出を思い返したり、言葉をかけていたのだろう。本格的なカメラの人もいればスマホの人もいる。スマホは動画撮影の人が多そうだった。
1分経つと右のサイドに移動、だから合計2分みられる。

次は雄のシャオシャオ、ちょうど食事中で竹をガツガツ食べていた。あんなに激しくひっきりなしに竹を食べるとは、百聞は一見に如かずで、はじめてみる光景に驚いた。竹にも多くの種類があり、パンダが食べるのは限られた種類だけ、かつ水分が多く食感のよい新鮮な竹が好みということなので、竹調達スタッフも大変らしい。体重は102キロ、合計2分という時間は思ったより長く、ゆっくり眺められた。
こうやって本物をみると、いそっぷ橋のパネル展「上野初のふたごのこれまで」の写真で、生まれたばかりからだんだん成長しいまの大きさになるまでがリアルに感じられた(このサイトでみられる)。
上野動物園のサイトによれば、カンカン、ランラン以降ホァンホァン、フェイフェイ、リンリン、シュアンシュアン、リーリー、シンシンが中国から、また上野生まれのトントン、ユウユウ、シャンシャン、レイレイ、シャオシャオも入れて合計13頭(その他乳児のうちに亡くなったパンダが2頭)。

「ありがとうシャオシャオ&レイレイ――暁にひらく未来への蕾」というスタッフの別れのメッセージのボードが掲示されていた。
園長、飼育展示課長、教育普及課長、飼育係など15人の新旧スタッフの手書き寄書きだ。
タイトルどおり、「いままでありがとう。中国でも元気で」という趣旨のものが多いが、さすが長年暮らしを共にされただけのものがあった。
「待望の双子に、思わず産室で声を上げて飛び上がるほどうれしかった。昼夜を問わず一緒に哺育室で過ごした約4ケ月間は本当の子育てそのもの」
「手のひらに乗るほど小さかったおチビから、すくすくと育ってくれたね。目に入れてもいたくないと思っていたのに、噛(か)まれたら普通に痛かったこと、絶対に忘れません! どれだけ大きくなっても、私にとっては「シャオ坊」と「レイちゃん」のままです」
「シャオの好奇心旺盛な姿、レイのマイペースな姿、全てが僕のかけがえのない宝物であり、大きな財産です」
親身に世話をしているスタッフならではの貴重な体験談の数々。
「成長とともにリーリー、シンシン(そしてシャンシャン)に似てきましたね」(名前が出ている3頭は両親と姉)
「シャオ!!緑ラインがどんどん太くなり印付けが大変になったけど、成長を感じられて嬉しかったよ! レイちゃん!! どんな竹でも沢山食べてくれてありがとう!」
「数年前は小さなリンゴの欠片を食べるのも苦戦していた2頭が、今では竹をバリバリと食べるのを見ると、逞しくなったなあと感心します」
「生まれた直後にへその緒の処理をしたり、ミルクを飲ませたり、排せつのお世話をしたり・・・」
「最初は苦労した健康管理のトレーニングも、今ではすっかりお手の物。体重測定も採血も、すっかり慣れてくれたね」
愛情あふれるコメントばかりだった。

動物園は、動物をみる側の人間の反応をみるのもなかなか楽しい。そういう意味では「人間」動物園だ。
主役は子ども、とくに未就学児である。親、両親、場合によっては祖父母や伯母・叔母、叔父が同行することもある。日本人だけでなく、アジアや欧米からの家族旅行の人もいる。また若者のグループ、中高年のグループ、カップルも当然いる。だから人数としてはおとなのほうが圧倒的に多い。

おとなも子どもも、まず「あっ! いた、いた!」の発見の声から始まる。だが「いないねぇ、いない!」という残念な反応がかなりある。というのもわたしが子どもだったころの「檻の中の動物」でなく、できるだけ現地の屋外自然環境に近くつくられた広い施設が多く、岩、トンネル、木や植物のなかのどこにいるか見分けにくい。
またゴリラのように4、5頭いるはずなのに、みな巣のなかで昼寝中ということもあるし、この時間帯は屋外の庭でなく、建物内の展示ということもある。そもそもコウノトリやタンチョウのように「鳥インフルエンザ予防のため公開をお休みしています」という札がかかっていることもあるし、サル山は何年かかけて作り直しているため当分閉鎖という場合もある。また、動物園マップをみていてライオンがいないことに気づいた。放飼場ごと作り直し中で一時的にいないのかと思いスタッフに尋ねると、もともといないということだった。多摩にパンダがいないように、多摩にライオン・上野にパンダという役割分担になっているのかもしれない。
あるいは少し前までいたのに「どこか行っちゃったね」と時間差のこともある。運よく活動中の動物を見られるかどうかは運次第だ。
運よくみつけられた場合、いまの時代なので第一声はおとなも子どもも「かわいい!」が多い。レッサーパンダやサルの仲間のアビシニアコロブスだけではない。小獣館は小さな動物ばかりなので、サイズの小さいネズミやネズミのようなサル、たとえば「コモンマーモセット」「カイロトゲマウス」はかわいいの連発だった。それだけでなく大きなゾウやトラでも仕種が「カワイイ」だ。逆は巨大なカバなどへの「大きいね!」という感嘆符もあった。
また人間にはないしっぽにも関心が集まる。サルやサイだけでなく、グリーンイグアナをみて「あんなに長い!」と驚いている人もいた。
草をむしゃむしゃ食べるコビトカバやゴリラをみて「○ちゃんも葉っぱ食べたか?」、幼児がおばあちゃんに遊んでもらっている。ひきがえるをみて「ゲロゲーロがいたね!」といっている人がいた。高齢者にとっても動物園は孫と遊べる場所だ。
夜行性動物やは暗い部屋にいる。幼児はそれだけで「こわい!」「いやだ! ママだっこ!」とむずかることもある。またわたしのような高齢者は暗闇に目が弱く、動物を発見できないどころか、足元や壁へ衝突しないか不安になる。
木の上で暮らす夜行性動物レッサースローロリスの名札をみて「高級車みたいな名前だな」といっていた男性グループがいた。
こどもだけでなく、おとなにとっても楽しい観光施設だ。さらにたんなる観光ではなく、本格的なカメラを構え、何枚も写真を撮影している人や長時間真剣にスケッチしている人もいる。
飼育している動物だけでなく、不忍池(正確にはそのなかの鵜の池)のカワウやカモもみごたえがある。昨年12月15日の観測記録では、カワウ281 オオバン14 コサギ 3 ユリカモメ5 カルガモ2 アオサギ1とあった。また東園と西園をつなぐいそっぷ橋東側の椿の赤い花弁もきれいだった。おとなにはこういう見方もある。

上野動物園のおみやげコーナーの一番人気はパンダのぬいぐるみ。大きいものは1万3000円、いちばん小さいサイズでも2200円といい値段だ。だが山のように並べられ、結構売れていた。また入口近くで記念写真コーナーがあり呼び込みをしていたが、長い列ができていた。
園内だけでなく、近所や上野駅近くにもパンダのみやげや記念写真コーナーがある。外国人の親子がパンダの絵をバックに記念写真と撮っていた。日本人だけでなくたいていの子どもはパンダが好きだ。
2月27日(火)にパンダが上野からいなくなると、今後どうなるのだろう。高市―習近平の対立から予測すると、当分パンダ訪日の見通しは暗い。もちろんウサギ、コアラ、ペンギン、カンガルー、サル、ハムスターなどほかにもかわいいぬいぐるみはたくさんあるが。以前2008年4月リンリンが死んでから11年2月リーリーとシンシンが中国から来るまで、3年弱上野にパンダがいない時期があったので、それを参考に当面耐えるのだろうとは思うが・・・。

京成上野駅近くの記念写真コーナーでは外国人親子が・・・。
●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。
(C)2007-2025 tamentai-fの日記