この2か月ほどのあいだに聴いた3つのコンサートについて、記録に留める目的もあり書き残しておく。3つのうち2つは、この季節だったので卒業公演のようなもので、若々しい演奏であるはずだが、そんなふうに感じさせない、内容が濃く十分楽しめるコンサートだった。

2月20日(金)新国立劇場オペラ研修所の春公演(旧・修了公演)「ウィンザーの陽気な女房たち」(オットー・ニコライ)を中劇場で観劇した。
序曲だけは何度か聞いた有名な曲だ。心がうきうきし、「さあどんなドラマが始まるのだろう」と期待を抱かせる。
始まった1幕、舞台はなんとトレーニングジム。自転車、リング(フラフープ)、ストレッチ用ポールがあり、なぜか4段の跳び箱まである。青いジャージのライヒ夫人と赤いジャージのフルート夫人が、ストレッチや体操に励む。てっきり西欧の蒼然とした屋敷や婦人服を予想していたので驚いた。
HPには「強欲ながら愛すべき老騎士ファルスタッフを中心に、快活で機知あふれる女性陣や若いカップルらが繰り広げる喜劇」とある。
パンフのあらすじとネットでみつけた筋書きを参考に、掲載する。本来3幕ものだが、時間の関係なのか、2部編成で上演された。
第1部
フルート夫人とライヒ夫人は騎士ファルスタッフから「愛を誓う」まったく同一文章の手紙を受け取り、この失礼な騎士に仕返しをしようと決意した。
ライヒ氏は、娘のアンナを裕福な貴族シュペールリヒと結婚させたいと考えるが、妻は裕福なカーユス博士を好み、肝心のアンナ本人はフェントンを愛している。フルート夫人はファルスタッフに密会を約束、合わせて嫉妬深い夫も懲らしめようとする。ライヒ夫人が「フルート夫人が逢引しようとしている」とフルート氏に手紙を出す。
何も知らぬファルスタッフがフルート夫人を口説いている。ライヒ夫人があわてて外から入ってきて「フルート氏が怒り狂って町の人たちを引き連れこちらに向かっている」と告げる。
夫人たちは準備した洗濯かごにファルスタッフを隠し、清掃員に「テムズ川に投げ捨てる」よう言いつける。
フルート氏と町の人が部屋中探すが浮気相手はみつからない。疑いをかけられたとフルート夫人は嘆き、皆はフルート氏を責め、妻に謝罪せざるをえなくなる。
(2幕)
ファルスタッフのところにフルート夫人から2通目の手紙が届く。「今夜夫は鷹狩でいないので、もう一度来てください」。ファルスタッフは機嫌を直し居酒屋の客たちと飲み比べをする。
そこにバッハという偽名でフルート氏が「カネを渡すからフルート夫人をくどいてほしい」と頼み、ファルスタッフは引き受ける。
第2部
舞台はライヒ家の庭の物干し場、右に自動洗濯機2台、左にアイロン台。シュペールリヒとカーユスが干された洗濯物の陰に潜んでいる。フェントンが現れ愛のセレナーデを歌い、家からでてきたアンナと愛を語り合う。それをみたシュペールリヒらは嫉妬する。
*
ファルスタッフが再びフルート夫人を口説き始めると、またもやライヒ夫人が来て「洗濯かごの件を知ったフルートさんが鷹狩から戻って来る」と知らせる。
今度はファルスタッフは太ったおばさんに変装させられる。
帰宅したフルート氏は洗濯かごを剣で突くが、だれもいない。部屋中探すがファルスタッフはみつからない。
フルート夫人がおばさんを連れてくると、フルート氏は怒って叩き出す。
(3幕)
夫人たちは、これまでのことをフルート氏に打ち明けるとフルート氏は謝り、みんなでファルスタッフにいたずらを仕掛けることにした。夜の祝宴に狩人ハーンとして変装させ招待する。一方ライヒ氏はアンナとシュペールリヒ、夫人はカーユス博士と結婚させようとする。
ファルスタッフは妖精に邪魔される。アンナはフェントンと結婚し、両親はそれを認める。

幕間のオーケストラ・ボックス
なかなか楽しい喜劇だったし、第1部の始まりがトレーニングジム、第2部の始まりが青空の下の物干し場という演出が斬新だった。カロリーネ・グルーバーという方の演出だ。以前、新国立でみた「指輪」のブリュンヒルデが三輪車を乗り回したり、ワルキューレの娘たちが患者をストレッチャーに乗せて走り回っていた演出に驚いたことがあった。しかし今回の演出ではあまり違和感を感じなかった。おかみさんたちの井戸端会議の場は現代ではジムもありえるし、洗濯物干し場で、シーツの陰に隠れたり、愛をささやくというのもファンタジックでよいと思った。
また最後の夜の庭で、白いシーツをかぶった妖精たちがうごめき合い、全自動洗濯機の上に白いベールの花嫁アンナを立たせて8人の妖精が行進するシーンも美しかった。
「鷹狩へ出かけよう」と乾杯し歌うシーンで、スポットライトを浴びたソリストのみ動き、コックや医者など衣装で職業が判別できる村人はストップモーションになる演出も、ちょっと歌舞伎のようでよかった。
歌手では、わたしはアンナ役・渡邊美沙季(26期3年次)がしっとりとし、かつよく通る声でよかった。歌がうまいのは全員だが、この人は演技もよかった。男性ではファルスタッフ役・町英和(賛助・6期修了)、次にフェントン役・矢澤遼(27期2年次)がよかった。偶然新婚夫婦役だが、わたしのような素人の場合、役柄に左右されているかもしれない。
オケは東京シティ・フィル、指揮・森内剛だった。この方もわたしは知らない方だが2018年からフランクフルト歌劇場のヘッドコーチならびに指揮者ということなので、オペラの世界では有名な方なのだろう。


3月1日(日)午後、練馬文化センターで高田馬場管弦楽団第107回定期演奏会を聴いた。
指揮:阿部未来、プログラムは下記3曲だった。
ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲
ワーグナー:ジークフリート牧歌
ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」
メインはブルックナーの交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」。馬場管に合う曲だった。金管とホルンが大活躍した。なお管楽器の活躍という点では「リエンツィ序曲」も最後1分間ほどのフィナーレの管打楽器の迫力がすばらしかった。
指揮の阿部未来は2017年、2020年に続き3度目の客演指揮だそうだ。2017年は聞いていないが2020年ティアラこうとうの定演は調べてみると、聞いていた。ラヴェル「ラ・ヴァルス」、ドヴォルザーク「交響曲第7番」などだが、残念ながら覚えていることはない。
管楽器の良さを引き出しておられたので、馬場管との相性はよいと思う。

前回の「崇から慧へ 馬場管106回定期演奏会」でも述べたが、馬場管のパンフは優れている。
「ジークフリート牧歌」は聞いたことはあるが、ジークフリートは「指輪」のジークフリートだと思っていたら、パンフを読むとワーグナーの息子の名だった。
スイス・ルツェルン湖の湖畔トリプシェンの邸宅で作曲された。ワーグナーは57歳、コジマと8月に正式に結婚、息子ジークフリートがちょうど1歳のときだ。コジマの誕生日は12月24日だがクリスマスイブなので、翌25日の朝7時半、小島の寝室に向かう階段に15人の楽師が陣取り演奏を始めたと、プログラムに書かれている。それでこんな穏やかな曲になったというわけだ。すばらしいクリスマス・プレゼントだ。
ブルックナー4番については、1874年1稿、1878/80年2稿(スラッシュは78年(主として3楽章)、80年(主として4楽章)に改定したという意味)、89年3稿の3種があるが、ブルックナー全集を編集したハースが3稿を認めなかったため大幅に2稿に戻し1936年に出版したハース版、その後ノーヴァクが改訂し1953年に出版した版がある。この日の演奏は、1878/80年ノーヴァク版だった。作曲家自身が改訂し、かつ楽譜校訂者がさらに修正する、それで複数の楽譜が存在する。ようやく理解できた。
もうひとつ「チューバ発展の歴史」というコラムが付いていた。
チューバは1835年特許の新しい金管楽器だそうだ。現在よく使われている楽器ではサクソフォンが新しいと思っていたが1846年開発なので、11年しか変わらない。たしかに意外なほど新しい。1836年開発時はF管、1940年代になりC管、B管が加わった。Es管はイギリスの金管バンドで使われる。大きさは、一番短いのがF管、Es、C、Bの順に大きくなる。この日の演奏に使われたのは、ワーグナーのリエンツィはF管、ブルックナーは緩徐楽章はCかB、それ以外はF管を使うことが多いそうだ。なおブルックナーが交響曲にチューバを使い始めたのは1877-1878年以降だそうだ。それで4番も1874年の1稿ではチューバは使用されず78年の改訂ではじめて使われたとあった。

3月29日(日)午後、ミューザ川崎シンフォニーホールで15回音楽大学フェスティバルオーケストラを聴いた。首都圏8音大に、上野学園が消えたので関西の音大選抜ということで京都市藝大から3人、相愛大学から1人が加わった。念のため首都圏8音大は、藝大、桐朋、国立、武蔵野、東京、昭和、東邦、洗足学園の8校のこと。
メンバーリストで数えると総勢128人の大所帯だが、編成上管打楽器(ハープ含む)67人はコープランドが終わったところ(前半終了時点)で全員入れ替わる。8音大をできるだけ平等に扱わないといけないからだろう。また大編成なので、曲目もある程度限定され、管打楽器が多く使われる曲になる。
今年の指揮はアメリカのジョン・アクセルロッド、60歳の男性指揮者だった。
曲目は
バーンスタイン:「キャンディード」序曲
コープランド:バレエ組曲「アパラチアの春」(管弦楽版)
ドアティ:ルート66
ガーシュウィン:パリのアメリカ人
オール・アメリカプロだった。
アクセルロッドもまったく知らない方だったが、プロフィールによれば2004年ルツェルン交響楽団首席指揮者およびルツェルン劇場音楽監督、09年フランス国立ロワール管弦楽団(ONPL)音楽監督とあるのでヨーロッパでも活躍されているようだ。
「キャンディード」序曲を軽快に振り終え、コープランドに移った。「アパラチアの春」はかつてレコードで何度か聞いたはずだが、なかなか凝った構成の曲だったことを再発見した。

後半最初の「ルート66」は日本初演、タイトルから推測される車の軽快さは思ったほどなかったが、ジャズ風味のすごく迫力がある作品だった。ドラムセットの演奏が光っていた。
ちなみにルート66はシカゴからサンタモニカまでアメリカ大陸を横断する3755㎞の旧国道。1960年台には日本でも放映されたテレビドラマがあった。
日本でなぜ演奏されなかったのかよくわからない(楽譜の問題かも)。もっと演奏されてよい、迫力あるいい曲だった。ほとんどの人にとって初めて聴く曲だったはずだが、拍手はひときわ高く、拍手が鳴りやまなかった。
指揮者アクセルロッドは、曲がのってくると腰を振り楽しそうに踊り始めるが、さらに音楽が盛り上がると、逆にどっしり構え、指揮棒を振るというタイプの方だった。
またサービス精神も旺盛で「アパラチアの春」演奏後、拍手に応えなんども舞台に登場し、さまざまなパートに拍手を贈ったあと、最後は観客に「スコア」への拍手まで要請していた。また、このコンサートは練習時間の関係もあるのだろうがアンコールはないことが多いが、鳴り止まぬ拍手の末「パリのアメリカ人」の後半部分を再演奏させた。
3つそれぞれ性格の違うコンサートだった。演奏ホールでいうと、オペラの中劇場は1階719、2階187の906席、馬場管の練馬文化は1階779、2階553の1332席、8音大のミューザ川崎は舞台裏まで席があるヴィンヤード(段々畑)形で、1階273、2階1081、3階341、4階242で1997席、それぞれ個性があるホールだ。練馬文化はどこにでもあるタイプだが、こうして考えると、汎用性のあるホールもそれはそれでよい、これも「強み」だと思う。
☆せっかく川崎まで来たので、京急川崎から東へ300mほどの立飲み「天下」に立ち寄った。ちょうど巨人対阪神の中継中で、ほとんどの客はテレビをみていた。スタッフはいつもより多い3人、マスターが入店する新しい客に対応していた。いつものとおりとても腰が低く感心する。この日は時間がなく、チューハイ1杯とチーズだけだったが、またゆっくり来たい。いつ来てもいい店だ。

天下
住所 川崎市川崎区宮本町2-4 ドルチェ宮本
営業時間 14:00 - 22:00(日・祝は20:00まで)
定休日 なし
●アンダーラインの語句には、ユーチューブ動画も含めたリンクを貼ってあります。
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